エルゴタイムは水上のパフォーマンス予測となりうるのか ~「NO」側の見解~

エルゴタイムは水上のパフォーマンス予測となりうるのか ~「NO」側の見解~

はじめに

多くの研究が2000mエルゴのパフォーマンスと生理学的変数の関係について研究し、しばしばエルゴタイムが水上パフォーマンスを予測するために使用できることを示唆している。エルゴと水上において運動生理学、酸素消費量、筋電図描写といった要素で類似性を検討した研究はあるが、エルゴで測定した生理学的変数と水上2000mパフォーマンスの関係を検討した研究は本研究が初めてである。

研究概要 

オープン級男子漕手19名(26.2±3.6歳、92.2±4.3kg、192.2±4.5cm)が研究に参加し、週間にわたって実験が行われた。M1Xによる2000m(2K)水上パシュートTT(30秒間隔でスタートし、2Kのコースでタイムを競う)と2Kエルゴテストを1週間全日実施した。そしてその1週間後にピークパワー(Peak 45)と平均パワー(Ave 45)を測定するため、Vo2Maxをモニタリングしながらの45sWingate(45秒間全力でエルゴを漕ぐ)テストを実施した。換気閾値(VT)は、VE/VO2のプロットから決定し、Concept2社のモデルCローイングエルゴメーターを用いて実験が行われた。

結果と考察

2Kエルゴタイム(6:05.4±5.5s)は2K水上タイム(7:35.7±11.4s)より有意に速かった(p<0.05).2Kエルゴパフォーマンススコアと2Kローイングパフォーマンススコアの間には相関はなかった。平均VO2 maxスコアは、5.9±0.4L/minまたは63.7±4.1ml/kg/minであった。VO2最大時のパワーは平均442.5±25.5ワットであった。VO2パワー、VO2maxともに2Kエルゴと有意な相関があったが、水上スコアとは相関がなかった。無酸素性閾値(AT)は、4.9±0.3L/minまたは酸素で発生し、VO2maxの83.4±4%であった。ATパワーは332〜418ワットで、平均368.5±21.3ワットであった。また、2K水中運動能力とも相関がなかった。ピーク45の値は770〜1134ワットで、平均は927.6±95.3であった。ピーク45と2Kエルゴタイムには有意な相関があったが、水上タイムとは相関がなかった。平均45値は737-896ワットで平均は796.9±74.2であった。

以上より、エルゴを含む陸上で行った測定はいずれも水上でのローイングパフォーマンスと相関がなかった。

すでに多くのコーチが知っているように、ローイングのパフォーマンスには、生理学的検査結果やエルゴによるパフォーマンススコア以上の要素が絡み合っている。エルゴにはそもそも技量があまり必要なく、水上でのローイングの技術は、バランス、効率、そしてリカバリーフェーズでのボートスピードの維持などといった複雑な技術を要する。これらの要素をエルゴで測定することは不可能である。エルゴは、ローイングの動作中に起こる生理学的変化を研究・追跡するのに適したツールであり、エルゴと水上のパフォーマンスに大きな差があり且つテクニックの比重が大きいアスリートに対して指導を行うのに役立つ。しかし、エルゴでのパフォーマンスと生理学的なスコアを水上でのパフォーマンスに変換する際には注意が必要である。

引用

‟Rowing Ergometer Physiological Tests do not Predict On-Water Performance”

Ed McNeely

https://thesportjournal.org/article/rowing-ergometer-physiological-tests-do-not-predict-on-water-performance/

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