マネージャー向け「強いクラブ」について~英国スポーツ協会規範より~

マネージャー向け「強いクラブ」について~英国スポーツ協会規範より~

マネージャーもしくは監督といった立場だと、選手・チームの競技力強化以外でおそらく一番頭を抱えるであろうクラブ運営。ヒト・モノ・カネをどう集めるか、チームとして一丸となれているか、OBとの関係は良好か。。。と考えるべきことは無限に浮かぶのではないだろうか?

今回は少し視座を上げ、強いクラブ運営指針の1例として英国スポーツ協会がガイドラインとして国内のスポーツクラブに示している指針について紹介する。(GB Rowingのサイトに掲載されているが英国スポーツ協会の規範である。)


Introduction to club management

2017年、英国スポーツ協会は「スポーツ・マネジメント規範」を発表し、国からの資金援助を申請するクラブが満たすべき最低限の要件を定めた。もちろんローイングクラブにも該当する。

- 明確なビジョンと将来への発展計画があること。

- クラブが効果的で、透明性があり、責任ある運営を行える状態であること。

- さまざまなスキルや経験を持つ人を運営にかかわる委員会メンバーにすること。

- クラブの最善の利益を念頭に置いている。

- 会員と関わりを持ち、適切なスキルと経験を持つ新入メンバーを奨励する。

- クラブのガバナンス(財務および方針)に対して責任を持つ。

- 長期的な視野に立った適切な意思決定を行うことができる。

- クラブの全体的なビジョンと価値をサポートする方法で指導する。

図でまとめたものを以下に示す。

ボート部マネージャー向け

この図はローイングに限らず組織運営という面で非常に的を得ているものであるので、ぜひ英語にもチャレンジしながら理解を深めてほしい。強い組織づくりに必要な要素として「財務・持続性・動機づけ・社会性・オープンさ・組織性」を挙げている。一つ一つ解説すると長くなるので細かく見たい人は出典のリンクからHPへ飛んで読んでみてほしい。


乗り越えるべき壁:アマチュアリズムと資金調達の相反

日本には地域コミュニティの性質を持つローイングクラブは数えるほどしかなく、大半はメンバーの会費や行政からの補助金で運営されている。一方英国ではほぼすべてのローイングクラブが民間企業や福祉団体からの支援を受け、かつクラブショップなどもECで経営しながら運営しており黒字達成率は国全体で95%を超えている。スポーツの根本に学校体育の意識がある日本では「お金儲け」と形容されそうであるが、ローイングという文化(特にアマチュアリズムとしてのノンプロの美学)の普及性と競技力を向上させるには間違いなく予算が必要であり、それをブランディングやマーケティングで調達することは正常な経済活動の範疇である。特にボート競技はアマチュアスポーツにしては莫大な予算が必要であり、金持ち学校や予算の潤沢な組織に選手が集まるのは仕方のないことであるが、それだけで競技力が図られるのは寂しい。このサイトにはローイングクラブ運営においてベターとされるブランディングの話も詳しく載っているのでぜひクラブ経営陣の皆様には読んでほしい。


余談:欧州での経験

小生は過去にスウェーデンでの留学経験がある。その際に所属していた大学のローイングクラブ(RoddKlubb)は地域のローイングクラブの施設を借用する形で運営されていた。
そこで、大学のローイングクラブと別に地域のクラブにも所属し、活動の輪を広げていった。運営資金は、自治体からの補助金と会費(半年で5万円程)、ローイングウェアの販売(ローイングスーツ:1万5000円、ジャケット:2万円など)、ローカルパーティーの開催、スポンサーシップによって賄われており、1年に1艇の新艇の調達が可能であった(私が居たときはコースタル1xであった)。しかしながら、常に潤沢な資金があったわけではなく、隣町のボートクラブの方がはるかに贅沢な環境を構築していた(数年前にWorld Rowingで優勝する所属選手が出てきて、会員数が激増したのである)。
大雨によって船台が壊れたのだが、自治体から修繕費として補助金を調達し、自分たちで修理し(もちろん私も駆り出された)、残った補助金でC2のモデルDを7台購入した(もちろんモデルCは売却した)。

このような涙ぐましい努力によって運営がなされており、半年ごとにボードメンバー+会員で総会が開かれ、現状と今後の方針について短期中期長期の様々な面でディスカッションしていた。
一見大変そうに聞こえるのだが、ボート好きが集まっているので当たり前の行為であった。ボートに乗ることが好きな人間がクラブの運営についてディスカッションすることが日常的に行われているその光景は、完全縦割り分業体制のほぼプロと言っても過言ではない、日本の大学ボート部の環境とはものすごく違いを見せつけられた。
そういう点を気する必要がなく、艇速の事を考えるだけで成り立つ日本ボート界は非常に恵まれていると同時に、特異な環境であると考えられる。


出典

GB Rowing公式HP ”British_Rowing_Club_Management_Guide”

https://www.britishrowing.org/wp-content/uploads/2021/03/British_Rowing_Club_Management_Guide_115pp_v5WEB_72ppi.pdf

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